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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)87号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 本件考案

成立に争いのない甲第二号証(実公昭五九―三二六五四号、本件実用新案公報)によれば、本件考案は、屋根面又は外壁面を横葺きする金属製面構造材の連結部外面を覆う連結用カバーに関するもので、<1>風雨などによつて簡単に外れないこと、<2>雨水がなるべく連結部内に染み込まないこと、<3>屋根面などの体裁を損わないこと、<4>季節変化による温度差によつて面構造材が伸縮しても対処できること、<5>建築現場で簡単に施工できること、等の連結用カバーとしての基本的機能を満足する面構造材における連結用カバーを提供することを目的として、前記の本件考案の要旨記載のとおりの構成とするものであることが認められる。

更に、右甲第二号証によれば、本件考案公報には右<4>の効果に関し本件考案の詳細な説明の項に、「気温の変化等により面構造材1・1が伸縮しても、その端縁が差込部15・15に差し込まれているので十分に吸収することができ、面構造材がカバーから外れたり又は曲ることがない。」(四欄二二行ないし二五行)、「面構造材の端縁は表面が折返片により押圧支持されているだけなので季節変化による温度差によつて面構造材が伸縮しても、面構造材がカバーや捨板から外れたり又は曲がることがなく、……」(四欄四二行ないし五欄一行)との記載があることが認められ、右記載によれば、本件考案は、差込部に差込まれた面構造材の端縁の表面を折返片で押圧支持することのみで季節変化がもたらす温度差による面構造材の伸縮から生ずる不都合を防止する作用効果が得られることをその特徴のひとつとしていることが認められる。

三 取消事由に対する判断

1 取消事由(1)について

第一引用例には審決の理由の要点3(一)に摘示に係る記載があること、連結用カバーについて同引用例記載の考案と本件考案とにおいて、前者の屋根材本体、基板、嵌挿係止条部、カバー、挾持部がそれぞれ別紙図面(一)に記載された後者の面構造材、捨板、支持部材、カバー、折返片に相当し、両者の構成が「前端に係止部を、後端に係合部を形成した横長な面構造材を横葺きにし、隣り合う左右の面構造材の連結部内面に捨板をあてがうとともに、左右の面構造材の端縁を捨板の表面にある支持部材に嵌め付けて連結し、この連結部の外面に被着するカバーであつて、このカバーは、面構造材に直交する平板状で前端には隣り合う左右の面構造材の係止部に嵌め付ける嵌合部を形成するとともに左右の側縁には裏側に折り返した折返片を設けてある面構造材における連結用カバー」との点で共通していること、すなわち、右の点において本件考案と第一引用例記載の考案とは構成上一致することについては、当事者間に争いがない。

原告は、第一引用例記載の考案においては、本件考案の「カバーの左右の折返片で支持部材に延出する左右の挾片を挾持して折返片で面構造材の端縁表面を押圧支持する」構成(以下「面構造材の支持構成」という。)を備えていないのに、これを備えているとしてこの点を両考案の一致点とした審決の認定の誤りを主張するので、判断する。

成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例記載の考案においては、屋根材本体の側辺部を上方に折り曲げて構成される折曲片を継手の嵌挿係止条部の側面に当接させたうえ、カバーの挾持部の表面を屋根本体の折曲片の裏面に嵌合する構成であることが認められ(七頁八行ないし一二行及び第5図)(右にいう表面、裏面とは、挾持部、屋根材本体の折曲片それ自体としてみた状態における表方向、裏方向を指す。以下同じ)、また、前掲甲第二、第三号証によれば、第一引用例の嵌挿係止条部の左右に斜め上方に延出している部分(同部分は<省略>状の嵌挿係止条部の直角状の肩部が屋根本体の折曲片の当接により斜め上方に拡がつた結果形成されたものである。)が本件考案の支持部材の挾片に相当することが認められるから、第一引用例記載の考案においては、「カバーの挾持部(折返片)の表面と嵌挿係止部の側面(具体的には、斜め上方に延出した部分)(支持部材の挾片)によつて屋根材本体(面構造材)先端の折曲片を挾持している」構成によつて、屋根材本体(面構造材)を支持しているということができる。そこで、第一引用例の右構成と本件考案の面構造材支持構成を対比すると、少なくとも次の二点、すなわち前者にあつては面構造材が折り曲げられ、その折曲片が面構造材を支持する部分であるのに対し、後者にあつては面構造材の端縁に右のような折曲片はなく、文字通り端縁が面構造材を支持する部分である点、前者がカバーの折返片と支持部材の挾片によつて面構造材の折曲片を挾持して支持するものであるのに対し、後者がカバーの折返片によつて面構造材の端縁表面を押圧して支持するものである点において相違している。先ず、第一引用例記載の考案における面構造材の折曲片に対する挾持と本件考案における面構造材の端縁表面に対する押圧支持の技術的意義について、支持される面構造材の端縁の形状との関連において対比検討すると、前記二に認定したように、後者にあつては、カバーの折返片が面構造材の端縁表面を押圧するという形で面構造材を支持することによつて、季節の変化がもたらす温度差による面構造材の伸縮をその差込位置で吸収することができるという効果を期待できるのに対し、前掲甲第三号証には前者におけるカバーの折返片と支持部材の挾片による挾持が右のような効果をもたらすことについてなんら記載がなく、右のように、面構造材の端縁を折り曲げその折曲片を挾持する支持態様からみても、後者におけるような季節変化がもたらす温度差による面構造材の伸縮の吸収という効果を期待し得ないことは明らかである。

そうであれば、前者における挾持と後者における押圧支持とはその技術的意義を異にするというほかなく、単に両者のカバーの折返片が面構造材の端縁を支持しているという外形のみを捉えて、両者の支持形態を同一視することは誤りである。したがつて、第一引用例記載の考案が本件考案の面構造材の支持構成を備えているとして、右の点をも両考案の一致点であると認定判断をした審決は誤りであり、原告主張の取消事由(1)は理由がある。

2 取消事由(2)について

第二引用例に審決の理由の要点3(二)に摘示に係る事項が記載されていること、同引用例の四角形板が屋根材(成立に争いのない乙第一号証によれば、面構造材も屋根材の一種であると認められる。)であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、同発明が「屋根材等に使用する嵌合板に関するもの」であること及び「耐水、耐候性をもつ屋根材を提供しようとするものである」ことが記載されていることが認められ、第二引用例における長蓋が本件考案のカバーに相当するものであつて、長蓋により耐水性を確保しようとしているものであることは、甲第四号証によりうかがうことができるから、「第二引用例における長蓋は、四角形板即ち屋根材の連結部に防水のために嵌合装着される点で本件考案における連結用カバーと軌を一にして」いるとした審決の認定に誤りはない。

しかして、前掲甲第二、第四号証によれば、第二引用例記載の発明の長蓋が上、下面部と左右の側面部とからなる下向きのコの字状の形状であり、その下面部である両脚突起が本件考案におけるカバーの折返片に相当するものと認められるところ、同発明について、審決は、「両脚突起の裏面で四角形板を押圧支持することになるのは明らかである。」との認定判断をする。しかし、前掲甲第四号証によるも、第二引用例には「両脚突起の裏面で四角形板を押圧支持する」との直接的な記載は認められない。ただ、同引用例には「四角形板11と長蓋13との接点に接着剤等を塗布して装着を終る。」(二頁右上欄一一行ないし一二行)との記載があることが同号証によつて認められるから、第二引用例記載の発明においては、四角形板(面構造材)は、端縁表面と長蓋との接点、すなわち両脚突起(折返片)に塗布された接着剤等によつて、両脚突起に固着されて支持されるものであるということができる。たしかに、別紙図面(三)からみて、第二引用例記載の発明において、両脚突起の押圧力が何らかの形で四角形板に及んでいることは全く否定し去ることはできないとしても、押圧に関する構成、効果等につき具体的明示的記載が第二引用例中に見出し得ない以上、同発明における四角形板の支持は、両脚突起による押圧ではなく、両脚突起との間に塗布された接着剤等の固着によるものと認めるほかない。そして、季節変化がもたらす温度差による面構造材の伸縮の吸収という本件考案の効果は塗布された接着剤等によつて固着した支持手段によつてもたらされるものと認めることはできず、右の固着支持と本件考案における押圧支持を技術的に同一視することは相当ではないから、第二引用例記載の発明において四角形板が両脚突起により押圧支持されているとの審決の前記認定判断は誤りである。したがつて、長蓋における上面と下面である両脚突起が本件考案におけるカバーと折返片と同様重合関係にあるか否かを問うまでもなく、原告主張の取消事由(2)は理由がある。

3 以上によれば、第一引用例及び第二引用例には本件考案にいう「押圧支持」の構成の記載も示唆もないものというべく、したがつて、本件考案の第一及び第二引用例の記載事項に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく本件実用新案登録は実用新案法三条二項の規定に違反してされたものとする審決の結論に誤りがあると認められるから、審決は違法なものとしてその取消しを免れない。

四 よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとする。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

前端に係止部を、後端に係合部を形成した横長な面構造材を横葺きにし、隣り合う左右の面構造材の連結部内面に捨板をあてがうとともに左右の面構造材の端縁を捨板の表面にある支持部材に嵌め付けて連結し、この連結部の外面に被着するカバーであつて、このカバーは、面構造材に直交する平板状で前端には隣り合う左右の面構造材の係止部に嵌め付ける嵌合部を形成するとともに左右の側縁には裏側にほぼ重合するようにして折り返した折返片を設けてあり、上記したカバーの左右の折返片で前記した支持部材に延出する左右の挾片を挾持して折返片の裏面で面構造材の端縁表面を押圧支持するようにしたことを特徴とする面構造材における連結用カバー(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

<省略>

別紙図面一の符号の説明

1…面構造材、2…捨板、3…カバー、12…支持部材、14…挾片、15…差込部、17…折返片、

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面二の符号の説明

1…基板、2…嵌挿係止条部、3…カバー、11…挾持部、イ…接合部、ロ…接合部、A…屋根材本体、

(他は省略)

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